FILE:005 アパート市場に潜むビジネスチャンス
1 アテブツとキメブツ
あなたがアパート探しに賃貸不動産会社の店舗に入り、椅子に腰掛け、場所、間取り、家賃等の希望を言えば、接客カウンター越しに店員さんが入居者募集中の物件資料を幾つも見せてくれます。もしあなたが、本気でアパートを探しているのであれば、あなたはあなたの希望に近い物件を3物件程度、現地まで案内して貰えます。
最初に案内される物件はアテブツです。家賃が安いけれども、誰も住みたくないような古くてオンボロの物件。次に案内されるのは、築年数が浅く、見た目は多少マシだけれども、家賃に割高感のある物件、これもまたアテブツです。そして、あなたがアパート探しに失望したところで、最後に案内されるのが不動産屋さんの決めたい物件、あなたの希望に最も近いと思われる本命のキメブツなのです。店員さんは最初からキメブツを案内すればいいのに、何故にわざわざその前にアテブツを2物件も案内するかと言えば、最初からキメブツを案内すれば、キメブツがキメブツにならないからです。キメブツと言っても、その物件だけを見れば、決して良質な物件ではないのです。キメブツはアテブツとの比較において初めてキメブツとなるのです。
アテブツとキメブツ、これは希望を持ってアパートを探す顧客にアパートの現実を把握させ、入居するアパートを決めて貰う賃貸不動産業界の常套手段です。賃貸物件には入居者が積極的にここに住みたいと思うような魅力的な物件は稀にしかありません。入居者は妥協しなくては、自分の住む物件を決めらないのです。他の物件に比べればまだマシ、一般的にアパート探しは入居者にとって負の選択(Negative Choice)です。
2 事業としてのアパート経営
人口の減少、景気の低迷、空室率の増加、賃貸住宅市場を取り巻く環境は厳しさを増すばかりです。供給過多により、都市近郊においても、一年以上未入居の新築物件が珍しくなくなりました。賃貸住宅は既に、貸し手市場から借り手市場へと変遷し、入居者は自分の住むアパートを数ある物件の中からより良い物件を選択できる時代に突入しました。建てれば、入る時代は終わったのです。
それでも、不思議なことに、アパート建築を頼む側の大家さんの意識も、建てる側のハウスメーカーの意識も変わることがありません。従来と何ら変わることのないプレハブアパートが今尚、続々と建てられています。アパート経営を単に節税の手段ではなく、事業として考えれば、既に有り余り、市場での競争力を失ったものを、今更これ以上建てることに何の意味があるのでしょうか、リスクばかりが大きく、収益など望みようがありません。
アパート経営は事業です。それも、何千万円、何億円の借入れを背負った長期に及ぶ事業です。事業はそれを始める前に、より多くの情報を収集、分析し、自分自身でよく考え、そして慎重に計画し、大胆に行動した人が成功するものです。何の勉強もせず、人任せにして成功するものではありません。大手だから安心ですよ、家賃保証があるから心配いりません、すべて任せて下さいと言うハウスメーカーの甘い誘いに乗せられ、時代錯誤のアパートを建ててしまい、できた部屋が埋まらず、こんな筈じゃなかったと後から悔やんでも遅いのです。
3 アパート市場に潜むビジネスチャンス
前章で私は、アパート経営なんて、嫌なことばかりで、儲かる商売じゃないですよ、これから人がどんどん減っていくのに、今更、大家なんかになってどうするの?と、今後のアパート経営に非常に消極的な見解を述べています。空室率の上昇と家賃滞納の増加、家賃の下落と入居者モラルの低下、強まる消費者保護の風潮、アパート市場の現状を概観すれば、確かにそうなのです。新築であれ、中古であれ、入居者に負の選択しかされないような物件での賃貸経営に明るい未来があろう筈がありません。
しかしながら、量ばかりが足り、その質に劣る現状の賃貸住宅市場において、入居者がこのアパートに住みたい、この部屋に住みたいと心から思う物件が現れれば、どうなるでしょうか?その物件は市場の注目を浴び、入居者に積極的に選択されます。この選択は従来のアパート市場における負の選択ではありません。正の選択(Positive Choice)です。選ばれる物件のオーナーは入居者から所定の敷金と礼金、家賃を受け取り、退居があっても、空室や家賃の下落を心配する必要がありません。そればかりか、複数の入居希望者の中から、より良質な入居者を選ぶことも可能となります。家賃の滞納に苦しむこともありません。
現状のアパート経営に苦しんでいる大家さんにとってはまるで夢のような話ですが、決して難しいことではありません。お客様である入居者と商品である建物にもっと関心を払い、ハウスメーカーの言いなりにならず、顧客満足度の高い、現状の賃貸市場にはない魅力的な物件を建てればいいのです。アパートだからこの程度でいいと割り切るのではなく、完成すれば、自分自身もそこに住みたいと思えるような物件を建てればいいのです。アパート経営を事業として認識し、事業として当たり前のことを当たり前にすればいいのです。
今後のアパート経営において不安材料はいくらでもあります。一見すれば、極めて将来性の乏しい賃貸住宅市場なのですが、消費者の視点が欠落し、今尚、工場生産の箱形アパートしか建てられない大手ハウスメーカーの寡占状態にあるこの市場は、問題意識と事業意欲を持った新規参入者にとっては、実に大きなビジネスチャンスが潜んでいる未開拓の市場である、私にはそう思えてなりません。
















